世界の大勢を全く鑑みずに海外旅行してみた話~起
イタリア行きを決めた当時、世界がそれほど平和だったかというと、そうではなかった。
2015年1月7日にはシャルリ・エブドによるムハンマド風刺と、それに対する報復テロ事件*1が起こっているし、さらに2月1日には湯川・後藤両氏がISISに殺害される事件*2も起きている。
ギリシャでは経済危機で国家経済が事実上破たんしているし*3、そのギリシャとトルコを経由してのシリア難民流入*4が喫緊の大問題だ。
真っ当な人間なら、表面上はとりあえず平和で、衣食住に不足なく、安全が保障された日本からは出ない。
2015年の夏は日本も安保問題で久方ぶりの大規模デモなどが起きていたけれども、人が死ぬわけでもなければ軍隊が出動するわけでもなく、さらに軍の将校による要人殺害が起きるわけでもない。
しかし、私は見てみたかった。
全世界に「われらの信じる正義こそ真実」と臆面もなく流布した元祖であるヨーロッパ世界の、その文化的嫡流であるイタリアが、この危機にどう動いているのか。
まあ、その、なんだ。
ベルルスコーニみたいなヤツをずっと国政の要職につけ続けたり、「ギリシャの次に破たんするのはイタリアかスペインか」なんて言われるほど経済状態も悪い国ではあるが、腐っても「偉大なるローマ帝国」の末裔である。
先進国でもあるし、EU加盟国でもある、危機に対して「それなりに」は対処してるんじゃね?と私は多少期待した。
…が、私の期待はイタリアの玄関口で完璧に打ち砕かれることになる。
アリタリア航空の直行便に乗れたとはいえ、12時間近いフライトで私はすっかり憔悴した。
5回連続で「マッド・マックス~怒りのデスロード」を観、「アナ雪」とジョージ・クルーニーの「モニュメント・マン」を鑑賞することで何とか時間を潰したが、「私は冷蔵庫の野菜か」というほどの冷気を当てられて、すっかり喉を傷めてしまったのである。
日本から持参したマスクとのど飴程度では太刀打ちできなかったので、ミラノのリナーテ空港に到着した時には私はすっかり不機嫌になり、ベイ夫を右往左往させることになってしまった。
ミラノ・リナーテ国際空港に降り立つと、当然だが入国審査がある。
もちろん私は善良な一般人なのでキチンと入国審査を受けたのだが、この入国検査がいい加減なことこの上ない。
入国審査官は(パッと見)若いお兄さんだったのだが、
「君たち、テロの危機に直面しているんだろ?」
と、日本国民一億強の中でもマックスいい加減な部類に入る私でもびっくりする適当さなのだ。
私が着けていたパスポートケースホルダーがヨーヨー式で伸縮するのだが、これをみて
「オー、ジャパニーズヨーヨー!」
と終始伸縮させて遊んでいた。
そしてロクすっぽ精査せずにあっさりスタンプを押してウィンクしてきたのである…。
そりゃあ見た目が中東系でもなけりゃヒジャブも着けていない日本のパスポートを持った平たい顔族の女*5など、テロリストである可能性は限りなくゼロに近いが、一応世界は厳戒態勢なのだ。
もうちょっとしっかり審査しましょうよ…とすっかり出鼻を挫かれてしまったが、それでも無事にイタリアに着いたのである。
現地時間で18時、空港が一番込み合う時間帯だったが。
ガラ空き…。
リナーテ空港はローマのフィウミチーノ空港とならぶイタリアの玄関口と聞いたが、全然旅行客がいないのだ。
そりゃあテロで渡航自粛している人が多いとはいえ、ビジネス客さえもまばら。
腐っても国際空港なので武装警察が警戒しているかと思えば、ガードマンの姿さえない。
…本当に、いい加減な国なんだなあ。
と変なところで感心したところで、私のイタリア見聞録がスタートしたのだった。
*1‥Wikipedia先生参照。
*2‥Wikipedia先生参照。
*3‥コトバンク参照。
*4‥コトバンク参照。
*5‥漫画「テルマエ・ロマエ」参照。